創業は1905年と古く、現在の会社としては1957年に設立した株式会社ヨシオカ。東東京に拠点を構え、革や合成皮革への表面加飾やエンボス成形といった加工をするようになった。
「先々代にあたる私の亡き父は、人を喜ばせるのが好きだったんですよ」と述懐するのは、現社長の吉岡由紀夫さんだ。
「発想力がすごかった。お客さんから『こうしたものを作りたい』と依頼を受けると、要望に沿ったサンプルだけでなく、『こうしたら面白いんじゃないか?』と少し手を加えたものも一緒に見せて見るんです。そうすると、『こっちのほうがいいですね』と喜ばれて。それが技術力の向上にも繋がりましたし、会社の評判を高めたのだと思います」
由紀夫さんが現職を引き継いで、7年が経過した。以前は畑違いの業界に籍を置いており、予期しない後継指名だった。しかし、高度な加工技術や設備、職人や取引先といった人間関係など、父や家族が遺した財産を元手に切り盛りし、安定した事業経営を担っている。
新御徒町から少し歩いた場所に本社工場があり、そこでさまざまな加工を行っている。従業員数は7名。
強みは、加工技術を広範囲に取り扱っている点だ。素材に金型を押し当てて形状を記憶させる型押し加工から、その加工に必要な金型の成形、素材表面を装飾する塗装やスクリーン印刷まで、一貫した加工が可能だ。
「型押しは型押し、塗装は塗装などと分業体制であることが多いなか、うちは自社内にそれらが可能な設備と技術を持っています。そのため、型押しと表面印刷の正確な位置合わせが可能なんです」
特に評価が高いのが、浮き出し加工だ。素材表面に凸状の加工を施すものだが、細かな部分でも非常に明瞭な凹凸を設けることができる。
「型押し加工の技術だけでなく、金型のノウハウも重要ですので。僕らは自分たちでできることに気を配るのみなのですが、人づてに聞いたところ、どうも他社さんではここまで表現をするのは難しいということです」
東東京モノヅクリ商店街に参画した理由は、直接消費者に届ける製品を手がけてみたいという想いからだった。
「基本的に私どもは、企業様から加工のご依頼をいただくのを待っている状態です。こういう加工ができますと売り込みにいっても、なかなか仕事には結びつきません。当社ができることをもっとわかりやすく世間様にお披露目する方法として、もうちょっと川下の部分に携わっていかないとと感じていたんです」
今回は革小物を手がける二宮五郎商店と協業し、革製のペントレーの加工に携わった。縁にステッチやコバ仕上げを済ませた平板の革を型押し、トレー状に加工した。「今回、金型設計や金型作製、絞り加工を一貫して自社で行いました。想像以上にうまくいき、私どもとしても新しい発見になりました」
このペントレーを見た消費者からどのような声が上がるか、由紀夫さんの心はちょっとの不安と、奥底にある期待感に満ちている。
「現職に就いてからのここ7年、日本のモノヅクリが少し減退していっているのを感じます」
大震災や円高の影響から、かなり国内の製造業者さんが海外へ出ていってしまった。量産を必要とするものは、話が海外に行きがちだというし、それも仕方ないと思っていますと話す。
「ただ、うちには他にはない技術力があります。海外では実現できない表現や、小ロットでの加工を求める取引先様からも、多くのご依頼を頂戴しています。シンプルなライフスタイルを求める傾向が高まる今、革の素材感を活かした表面加工の可能性はまだまだ大きいはず。当初の技術を、もっと多くの製品に活かせればと考えています」