とにかく頭の中が常にアイディアでいっぱいの人だ。海外の名だたるブランドのOEMと独自の世界観を表現したオリジナル商品を製作する老舗のレザーメーカー二宮五郎商店の代表、二宮眞一さんに話を聞いた。
浅草の革問屋で修行をしていた先代の二宮五郎が独立し、革製品を製作するようになったのは70年以上も前。創業当時はシチズンの時計バンドを一手に手掛ける革製品工房としてスタートした。その後、時計バンドの製作は他社に譲りバッグや財布、小物類などの製作を始め、設備もどんどん拡張していった。通常の革製品の製作というとバッグや小物類で設備が異なるため細分化されているというが、「全ジャンルなのがウチの強み!」と自信をのぞかせた。
バッグや財布はもちろん、革風呂敷や革のデスクウォッチ、ペンボックス、ルームシューズなど、実にバラエティに富んだラインナップだ。「興味を持ったものはなんでもやってみる」という信条は眞一さんが先代の後を継ぐ以前から変わらずに持ち続けているコンセプトのようだ。
眞一さんは28歳までは飲食店を経営しており、看板も内装もメニューも全て自分で作っていたという。この頃の経験も今につながっている。革の品定めと魚の良し悪しを見抜く目利きとが似ていたり、ランチ定食の盛り付けがどうしたら見栄えの良いものになるのか研究をしたり。さらには配膳用のお盆に至るまで、どうしたらもっと軽い素材にできるか…など当時から色々なアイディアが頭に浮かんでは実行し、現在は「アイディアが多くて秘密だらけ」なのだそう。
サンプルを製作するにあたり、「一発テイク」になる瞬間がある。基本的にデザインは言葉で説明できるものでなければいけない、そうでなければ商品にしてはいけないと考えている。次々と出てくるアイディアも極めて冷静に、合理的に頭の中で設計が行われているのだと感じた。そういった脳内処理を行うための研究を常に行い積み重ねてきたからこそだ。そこから図面へと書き出し、一発テイクのサンプルを生み出す。まさに頭の中のアイディアが具現化される瞬間だ。
長年やっている間にはもちろんトラブルなどもあったが、あえてそういったものを壁とは思わずに突き進むというのも流儀だ。できるだけポジティブなこと、面白いアイディアや研究にフィーチャーしていきたいという。
人工皮革はできた時が100%であとは下がっていくだけだが、本革は100%から200%、300%と上がっていく。傷だってヴィンテージとしての味が出てくる。街も人もモノも、自分なりにカスタマイズしてエイジングを楽しんでいくことで、ユーズドではなくヴィンテージとして仕上がっていくのではないか。特に革の製品はそのストーリーをとても身近に感じさせてくれる。
「車、古本、家具、古いものが無条件で好き。うちで作るものもできるだけ長く使ってもらって時代の重みを製品と共に歩んでほしい。」
そう話す眞一さんの頭の中には、もう次のアイディアが生まれているに違いない。
文、Photo:吉田ちかげ