(株)ヨシヨシは、40年以上ジュエリーに携わり、その名前の由来になっている吉田良さんによって、20年前に設立されたジュエリーを扱う会社です。ジュエリーは東東京の地場産業であるという誇りを胸に、確かな技術と物語のある商品を提供しています。今回出展されるペンダントは、その思いはそのままに、新たなチャレンジに向かう第一歩となりそうです。その裏に隠されたストーリーを紐解くため、吉田さんと、その右腕である瀬川さんにお話しを伺いました。
――今回、東東京モノヅクリ商店街に参加しようと思ったきっかけは何だったんですか?
吉田さん(以下、Y)「技術には自信があるものの、何をしたら東東京をアピールできるんだろうってずっと考えていたんです。スカイツリーができたとき二人で見に行ったら、観光客がいっぱいで、あんなに寂れていた浅草にも海外からのお客様がいっぱいいたんですね。だから、最初は海外の人に東東京の魅力を発信したいと考えていました。でも、クリエイターさんと話をしていたら、現代の日本女性たちも、日本の伝統や文化や歴史を知らないという話になったんです。だったら、20代、30代の若い女性が、自分でつけたりお友達にプレゼントしたときに、日本の文化的なストーリーを語れるようなものが作れればと思いました」
――ジュエリーというと、正直敷居が高い気がしてしまうのですが……。
Y「ジュエリーというと、皆さんちょっと引いてしまうんですよね。今はファッションの一部になっているのに、“自慢するもの”という考えから、ジュエリー屋さんはなかなか抜け出せずにいます。でも実際、普通の人はダイヤモンドに500万、1000万をかけることは難しいですよね」
瀬川さん(以下、S)「百貨店でいうと売り場が違っていて、6階、7階に置いてあるものは、価格的にも若い方には敷居が高く、お客様も50代~70代の方が多いんです。逆に1階や2階は30代~40代くらいまでの方々を対象にしている傾向があります。御徒町のお客様も、最初は若い世代が多かったのですが、年を経て、次の世代は1階の売り場へ流れていきました。僕自身は、ジュエリー製作の技術を学んできており、いつか同世代の方々にアプローチしたいと思っていました」
Y「僕らは百貨店の1階にトライしたいんです。私には縁がないと思っている人に、ジュエリーを身につけることの素晴らしさや、身につけることで変わる自分を感じてほしい。そこには物語があって、ただの飾りではない。お守りであり、文化であり、自分の思想であり、個性を出すものだということを伝えていきたいんですよ。そのためには、多くの人が買える価格であることがどうしても必要でした。東東京の意地を見せてやろうじゃないのっていう感じですね(笑)」
――その思いが今回のプロダクトにも込められているんですね。実際にどのような商品を出展されるのでしょうか?
S「僕たちがもっている技術を活かして、なおかつ若いお客様にも日本のジュエリー文化を伝えたいという気持ちから、和柄をモチーフとして手に取りやすい価格帯のペンダントを作りました。ジュエリーで和柄というと、漆やちょっとした木工も取り入れることが多いのですが、重厚感があったり主張の強いものが多いように感じていたので、もうちょっとさらっとつけられるようなものを提案したいと思いました」
――このシリーズの名前はつけられているんですか?
S「今、考えているのは“Amatubu”という名前です。表面に艶やかな光を放つカボションカットが、雨のしずくのように見えるんですよ。宝石を雨粒に見立てて、その中に何かを写り込ませたら面白いんじゃないかと思いました。身につけやすくて、我が強いわけではないけれど日本の文化が伝わるように落とし込もうと考えたんです」
――なるほど、下にプレートがあって、その柄が透けて見えるんですね。
S「透明度の高い石をカボションカットにすると、下が透けてしまうという弱点があるんですね。でも、下が透けるなら綺麗なものの上に乗せればいいんじゃないかと考えました」
Y「素材そのものの色や、カットの形、発色のよさ、縦横の角度……さまざまなことを考えて、一番きれいに見えるように作られています。この小さなものの中に、彼のこだわりが詰まっているんですよ。見て美しく、そこに技が入っている。これはジュエリー屋じゃないとできないと思います」
――この柄にはどのような意味合いが込められているんですか?
S「主に、日本で発展していった文化的な柄を取り入れています。たとえば麻の葉には安産祈願、波と千鳥を組み合わせると荒波を越えていくということで夫婦円満など、それぞれ古くから柄自体に意味があるんです」
――これだけのこだわりがあると、価格を下げるのが難しい気がするのですが、どのような部分を削っているのでしょうか?
S「素材に、シルバーとガラスを使っています。ただし、ガラスは宝石を研磨している職人さんに削っていただいています。普段はあまりやっていないそうなのですが……」
Y「削ってカットしていくので、その技術を知らないとできませんから。このプレートに乗せたとき、ガラスの素晴らしい効果が表れるんです」
S「水滴の映り込みをイメージしたカットを試してきました。横から見たときは柄が見えないけれど、少しずつ前を向くにつれて中の柄が映り込んで広がっていきます。今回の雨粒は、上から降ってきたときの形をイメージしていて、宝石でいうとティアドロップやペアシェイプというカットになります。柄や細工の細かさも、安全をとると物が大きくなってしまうのですが、業者さんと相談して、もう無理です! と言われるギリギリのラインで作りました」
――瀬川さんはお若いのに、本当に深いこだわりをお持ちですね。
Y「でしょう? 僕たちはこだわりでもっているようなものですから。ジュエリーが本来もっている気持ちや、東東京の伝統的な職人さんたちが培ってきたものを活かしていきたいんです。安易に海外のインポートを出すということはしません。海外のいいものは素材として使って、それを東京の職人さんの技で見せる。あえて苦労して東京で作ることに意味があると思っています」
創業から20年経っても、まだまだ衰えない吉田さんのバイタリティ。そして、若手でありながら大切なことを守り続けたいという瀬川さんの思い。まるで親子のような二人が手と手を取り合って生まれたペンダントには、美しさと深い思いが詰まっています。ジュエリー屋さんならではの、繊細で優美なデザイン。ぜひ手に取って、そこにある“何か”を感じてください。
Photo_MURAKEN