材木屋として昭和51年にスタートした(株)ニチナン。現在は材木加工業として、店舗や家屋の内装などを手掛けています。今までは加工を受注するのみだったのですが、3代目の宮川孝彦さんには新たな考えがあるそう。たくさんの人との出会いから生まれた発想は、これからの挑戦へと繋がります。
――東東京モノヅクリ商店街に参加しようと思ったきっかけは何だったんですか?
「『フロンティアすみだ塾』という事業継承者のセミナーに参加していて、中小企業の方と知り合う機会が増えたんです。皆さん本当にいろいろなことをやっていて……そこですごく刺激を受けて、うちでも何かできるんじゃないかと思って東東京モノヅクリ商店街にも参加することにしました」
――『フロンティアすみだ塾』はどのような方がいるんですか?
「墨田区は製造や卸しの方が多いのですが、僕らの同期は特殊らしくて、ガラス瓶屋さんや自動車業の方、うどん屋さん、薬局、イベントを主催している方……と、製造業の方がいないんです。僕は13期なんですけど、12期分のOBの方々がいらっしゃるので、講義のあとに交流を深めさせてもらって、すごくプラスになったと感じています」
――今、木工の業界的にはどのような状況なのでしょうか?
「今は政府が国産の木の使用を推進しているので、木を使うこと自体は多くなっています。ただ、集成材が多くて安く買いたたかれてしまうんですよ。僕は自伐林業推進委員会というチームに入っているのですが、そこでは小規模な林業家さんが集まっていて、この現状をどうにかできないかを考えています」
――原料のことから考えられているんですね。自伐林業推進委員会では、具体的にどのようなことを行っているのですか?
「中嶋さんという方が先頭に立って進めているのですが、今までのように大きな機械を入れて山を丸裸にしてしまうのではなく、チェーンソーで間伐をして森を壊さないようにする林業のやり方を推進しています。木を全部切ってしまうと、土砂崩れなどの災害が起きやすくなるんです。だから自伐林業の話を聞いたときは、すごくいいなと思いました」
――木工業をメインにしながら、本当にさまざまな活動をされているんですね! 今回、東東京モノヅクリ商店街の展示会にはどのようなものを出展されるのでしょうか?
「実は父が倒れて、忙しさと人手不足で今回は延期させてもらったんです。もともとは生活に溶け込むような、椅子や机を作ろうと思っていました。青梅で林業を営んでいる方がいるので、その方から材料を買って、うちで加工できたらなって」
――東京でも林業をされている方がいらっしゃるんですね。まさに東京メイドですね。
「すべて東京で作っているという付加価値をつけられたらと思いまして」
――デザインもご自分でされる予定ですか?
「デザインというよりも、機能や木目を活かしたものを作れればと思っています。木材本来のよさを伝えたいという想いですね。モノを開発して、自伐林業家の方々と一緒に仕事をしていければと思っています。やっぱりどこも苦しい状況なので、一緒に木を盛り上げていきたいですね」
――多くの人との出会いから新しいモノも生まれそうですね。
「そうですね。材木屋さんだけでなく、多くの方と出会う機会が増えたので、楽しんでやっています。先日もうどん屋さんから、お箸の形をしたメニューを書く木札を作ってほしいと頼まれました。うどん屋さんの目の前が箸の漆塗りのお店なので、そこで漆を塗ってもらう予定なんです」
――モノづくりをする人同士で協力し合っていくのは理想的ですね。
「やっぱりずっと同じ場所で同じことをやっていても、なかなか新しい発想は生まれないんですよ。今、お金を払って鉋くずを引き取ってもらっているんですけど、お花屋さんなどに持っていくと喜んでくれるんですよ。ヒノキのいい香りがするので、そこからハロウィン用のリースが生まれたり……こんな使われ方もするんだって新鮮に感じました。いろいろな方とお話しすると、何がどう転ぶかわからないものだなって。ガラス屋さんは、鉋くずを緩衝材にしたらいいんじゃないかって言ってくれて、今度持っていくことになっているんですよ。もともと捨てていたものなのに、人気沸騰なんです(笑)。本当にアイデアと行動力で新しい何かが生まれるんだなって実感しています」
宮川さんの奮闘により、新たなステージへの一歩を踏み出したニチナン。お父様も無事に復帰され、万全の体制です。出会いの場を積極的に増やし、日本の木という素材を大切にしながら広げていく活動は、思いもしない素敵な展開を呼ぶことも。受動から能動への転換が、新しい何かを生み出しつつあります。
木材加工ニチナン株式会社 (FACE BOOK)
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