著名な香水・化粧品メーカー勤務を経て、東東京出身の清水 篤さんが2008年に立ち上げた(株)キャライノベイト。会社設立のきっかけは、営業で地方をまわっているうちに「モノづくりが衰退していく現状を何とかできないか」と考えるようになったことだそうです。その後、モノづくりを応援する活動をしながら、オリジナル商品も次々に開発。東東京で培われた視線の先は、すでに世界へと向けられています。
――最近はどのような活動をされているんですか?
「新商品で、ゆずのハンドクリームを作りました。石川県の能美市に、農薬を使わず有機肥料で作られている『国造ゆず』という特産品があるのですが、ジュースを作るときに捨てられてしまう皮を引き取って、貴重な精油から化粧品を作っています。そして、売上の2%は『国造柚子生産組合』に寄付することにいたしました。後継者不足で農家の方々の平均年齢が80歳くらいになってしまっているので……」
――すごくいい香りですね、どこか懐かしい感じがします。評判はいかがですか?
「有難いことに結構いいんです。商品だけでなく、同封している農家さんのお手紙も好評で。現地の石川県の新聞にも多数掲載していただきました」
――日本のモノづくりを応援しながら、商品開発をしていくということですよね。日本製にすることでコストは上がると思うのですが。
「上がりますね。上がりますけど、その分クオリティが高いきちんとしたものが作れます。それに、大量生産ではない分、少量でいろいろなものが作れるという楽しさもありますし」
――ボトルやパッケージも日本製にこだわられているんですよね?
「そうですね。ただ、お願いしていた工場がつぶれてしまうということもあるんですよ。ガラスのフロスト加工ができるところは、もう3社くらいしかなくて。そこがなくならないように自分たちも頑張るしかないんです(笑)」
――今回、東東京モノヅクリ商店街に出展されるのは、どのような商品なんですか?
「お香を出展しようと思っています。以前から“香りで時間を計る”ものが作りたかったので、スティックタイプのお香と、お香台をセットにする予定です。もともと、お香台はお経を唱える時間を計るためのものなので、目盛りを付けて、香っている間に何かをできるようなコンセプトにしています。東東京(モノヅクリ商店街)のイベントで紹介してもらった金属加工会社さんがお香台を作ってるんですけど、真鍮をそのままシンプルに使っていて……結構良い感じにできあがるんじゃないかなと思っています。これがサンプルです」
――横に挿すようになっているんですね……素敵です。香りはもう決まっているんですか?
「“だん”“せい”“どう”の3種類で考えています。“だん”は団らんや談笑など、暖かさを思わせる香りです。精油だと甘めのシトラス系で、結構日本人が好きな香りですね。“せい”は静寂や神聖……と心穏やかになる香りで、レモンやフランキンセンスなどのすっきりとした印象に仕上げています。そして“どう”は、元気で活発な気分になるような香りのブレンドで、グリーンウッディのような感じです」
――精油の効果も考えながら作るんですか?
「その点も考えて作りますが、精油自体の効果よりも心地良い香りだということを重視しています。効果効能から入ったときに、この香りが眠りに良いと言われても、それが心地よく感じられなければ意味がないと思うので。なるべくスーっとなじむような、心地の良い香りにするように心がけています」
――デザインも、今までのお香のイメージとは少し違う雰囲気ですね。
「お香自体は15年ほど前にブームがあったんですけど、今はライフスタイルショップからなくなっているので、そろそろ再びブームを起こすには良い時期なんじゃないかなと思って。しばらくお香の不毛な時代が続いていたので、逆に今新しく感じられるんじゃないかと思います」
――お香がまた脚光を浴びる日が来ると。
「はい。やれたら面白いなって思っています。自分は40歳なんですけど、若いときにお香が流行っていた世代なんですよね。大人になった今の生活空間になじむというか、スタイリッシュな空間を演出できるようなお香ってあまりないので、存在感をアピールできるようなことができればと思っています」
――今後、会社としてはどのような展開をしていく予定ですか?
「今は海外に広げていく準備をしているところです。まずは、フランスから攻めていきたいと思っています」
社名の『キャライノベイト』とは、代表的な香木のひとつである沈香の中でも、特に最高級と言われる『伽羅』が由来だそう。この『伽羅』は、江戸時代には良いモノを褒めるときに使った言葉から、キャライノベイトには、それを呼び起こすという意味が込められています。日本の良いモノを残し、現代に蘇らせる――清水さんの挑戦はこれからも続きます。
株式会社キャライノベイト
Photo_MURAKEN