アクセサリーパーツの問屋や小売店が集う街として知られる台東区浅草橋。奥澤さんが代表を務めるオクザワの「ブーゲンビリア」も、この街らしさを彩るレザーパーツショップのひとつだ。
「当店のお客様のメインは40~60代の方で、若いハンドメイド作家さんも増えてきています。お気に召していただけると、『とりあえずストックしていこう』と大量に買っていかれる方も多いんですよ」
オリジナルのメイン商材が、「レザーフラワーパーツ」と呼ぶ花モチーフのレザーパーツだ。花弁の形も大きさもさまざまな約10型15色の品目がラインナップされ、ピアスやイヤリング、ヘアアクセサリー、バッグチャームなどの創作品を生み出す元となっている。2坪ほどの店内にはそれらレザーパーツが所狭しと咲き乱れ、実際の敷地以上に広大な世界を繰り広げていた。
革小物の卸売業でデザイン業務を担っていた奥澤さんは、2000年代後半に独立を決意。幼い頃から手先が器用で、アクセサリー制作・販売に関連した事業を検討した末、レザーアクセサリーに道を見出したという。
「培った人脈を活かし、またいくつかの幸運もあって、独立してすぐに合同展示会に出展したり御徒町の高架下にできた新しい商業施設に出店したりすることができたんです」
そうして2011年、御徒町に誕生した店舗が「アラマンダ・レザー」だ。そこではパーツではなく、レザーアクセサリーやバッグの完成品を販売。質の良さや素材特性を熟知した上でのモノヅクリ、そして奥澤さんが生み出す瀟洒なデザインは多くの女性の関心を集め、ブランドとしての地位を築き上げていった。
そうしてレザーアクセサリーの世界へどっぷり浸かっていった最中、関係者からの誘いで参加したハンドメイドイベントが転機になった。個人作家や愛好家の多さ、マーケットの大きさに驚いた奥澤さんは、制作・販売に注力する対象を完成品からパーツへ変更することを決意。御徒町の「アラマンダ・レザー」を閉店し、数多くの同業者が集まる浅草橋で「ブーゲンビリア」をオープンさせた。
「もともと『ブランドを作り上げたい』という野心はなく、『レザーアクセサリーの楽しさを多くの人に伝えたい』という想いのほうが強かったんですね。ハンドメイドの世界を知ってからは、レザーパーツを提供する役割こそ求められているのだと思いました」
「アラマンダ・レザー」は実店舗がなくなったものの、固定ファンの期待に応えるためECサイトでの販売は継続。パーツ販売の「ブーゲンビリア」とともに、オクザワの事業を支える両輪となっている。
「ブーゲンビリア」のアイコニックな存在であるフラワーモチーフは、試行錯誤の末にたどり着いたものだという。優美さや繊細さを表現するべく、革靴のアッパーに用いられるような柔らかなヌメ革を主に採用。革そのものの風合いを残しつつ、丁寧に染色を施している。そしてなによりこだわっているのが、フォルムだ。
「クリッカーで切り抜いた後、少し濡らしてから、花弁一つひとつを手で捻ったりして成形するのですが、形を維持するために硬化剤を塗る必要があります。ただ質感を残すため、パーツ全体を硬化剤に漬けるわけにはいきません。爪楊枝を使って革の裁断面や背面に塗布しなくてはならず、これがものすごく手間なんです。花型に抜いたレザーパーツは他にもたくさんありますが、裁断面まで丁寧に処理しているところはそう多くないはず。私たちはそこまでやることで、高い品質を維持できているんです」
レザーアクセサリーは苦心して新製品を開発しても、すぐに真似されてしまうのが常だという。しかし「ブーゲンビリア」が生み出すフラワーモチーフは丁寧な職人技が土台にあることで、真似できないオリジナルの価値を生み出せている。
東東京モノヅクリ商店街には、「ブーゲンビリア」のさらなる認知獲得やSNSの効果的な活用を目的に参画したと奥澤さんは打ち明ける。
「モノヅクリはよくても、広告宣伝はあまり上手じゃなくて。集客を増やすために、ぜひアドバイスをもらいたいなと思いました」
専門家からの助言のもと、インスタグラムで定期的に映像コンテンツを配信。テキストの適切な表現方法も学び、閲覧数は着実に伸びているという。
「私たちのメイン顧客層よりもSNSユーザーは若年層が多いのですが、ブランドの裾野を広げていくにはこうした活動が大切だと考えています」
オンラインでの活動に積極的なのは、数年のうちにリアル店舗を閉め、ECや卸売に販路を絞りたいからでもある。
「実店舗があると、どうしても私自身の行動が制限されてしまうんです。固定費も削減できますし、近年はECの売上が伸びていますし、全国の催事やワークショップに積極的に参加したほうが将来的なメリットが大きいと思っています」
多様性や自分らしさを尊重する傾向は、今後も強まっていくと予想されている。そうした世情を背景にハンドメイド市場も盛況になっていくはずで、「ブーゲンビリア」が秘めるオリジナリティの価値はますます高まっていく。
Bougainvillea(ブーゲンビリア)
〒111-0053東京都台東区浅草橋3-30-5-1F
TEL: 03-6803-2621
URL :https://www.bougainvillea.tokyo/