長澤ベルト工業はその名称の通り、紳士服に欠かせないベルト製造を専業とするメーカーだ。1967年に創業して以来、葛飾の地で本革ベルトを作り続けている。
2階建ての工房には8名の職人や事務員スタッフが在籍し、革素材の加工、貼り付け、塗り、研磨、パーツの取付などさまざまな工程を行っていた。
「バッグや財布など、革小物を手広く扱うメーカーさんも少なくないのですけど、ウチはずっとベルト一筋なんですよ」と教えてくれたのは、2代目社長の長澤猛臣さんだ。
「『他に革小物は扱わないのですか?』とよく聞かれるのですが、半世紀以上ベルトだけでやってきました。ベルト製造については絶対の自信を持っていますし、実際ベルトだけで事業を継続させてきたという事実が信頼にもつながると考えているんです」
長澤ベルト工業を興したのは、現会長の父・潤治さん。新潟から集団就職で上京してベルト工場で修行し、やがて独立。息子である猛臣さんは、生まれたときから父や仲間の職人がベルトを作る風景を見て育ったと話す。
「僕自身手を動かすのが好きで、幼い頃から家業を継ぐ気持ちでした。ただ世間を知る必要があると考え、まずはアパレル企業に就職して服飾業界を学んだんです。生産管理に携わり、さまざまな縫製工場を見て回ったりアパレル側の論理を学べたりしたのは大きな経験となりました」
数年して猛臣さんはイタリアに留学し、革小物の職人としての修行を経験。1年半後に帰国してからは再び服飾業界に戻り、今度は海外生産の現場を見て回ることに。そして2014年から、長澤ベルト工業の社員になったという。
安い海外製品の流入やベルトを着用しない服装の流行、さらにはOEMの取引先ブランドを含むファッション業界そのものの退潮……入社する前から、ベルト業界には大きな逆風が吹いていたと猛臣さんは振り返る。
「そのころはOEMが100%。取引先も拡大していたのですが売上は下がる一方で、過渡期を迎えているのだと感じました。それに街の格安店へ行けば1本1000円を下回るベルトもあるのに、ウチのベルトはどれだけがんばっても上代は1万円から。どうやっても、そうした製品との価格競争はできません。でも、ウチは素材や縫製にとことんこだわっていますから、長く使えて納得いただけるモノを追求していくべきだと考えたんです」
そうして、高品質で機能的なオリジナル商品の開発へと舵を切ることに。2019年秋に誕生したのが、「伸びる本革ベルト」だった。本革なのに4cmも伸び、かつしっかり元に戻るという画期的な製品で、まさにベルト一筋でやってきた熟練の技が光る発明だった。
「メッシュベルトも伸縮性がありますけど、あれはだんだんと伸びていってしまいますし、カジュアルなシーンでしか着用できません。そこでほどよく伸びる染料染めのオイルドレザーを選び、復元性の高いゴム帯材を芯材に使用することで、一見するとオーソドックスなデザインなのに優れた伸縮性のあるベルトを生み出すことができました。1万回試しても、しっかり伸縮するんですよ」
翌年、さらに伸縮性を8センチに高めた「寛ぎ究極リラックスベルト」を発売。地元の優れた技術で製造された製品を認定・PRする「葛飾ブランド」にも選ばれ、オリジナル製品の主力へと育っていった。また、最近では体格が大きな人に向けたロングサイズのベルトも展開し、相撲力士ともタイアップしてニッチな市場を開拓。不定期ながら各地でポップアップショップも開催しており、「長澤ベルト工業」の名がひとつのブランドとして歩み出している。
「現在は、オリジナル製品販売が事業売上の25%を占めるまでに成長してきました。OEMはOEMで絶対に続けていきたいのですが、長期的にはこれらの売上構成比が半々くらいになるといいなと思っています」
オリジナル製品をさらに一般消費者に広めたいとの想いから、東東京モノヅクリ商店街への参加を決意した。現在は助言を受けながら、これまで手が回っていなかったホームページの作成に着手している。
「ファッションが変わってもベルトはなくならないだろうし、特に今後はステイタスより着心地が重要視される時代が訪れるのではないかと予想しています。そう考えると、確かな技術を駆使して真面目な製品を作っているウチにとっては、勝機です。不幸中の幸いというか、ベルトという商材はコンペティターも少ないので、専業という当社の価値はますます活きてくる。『やっぱり長澤ベルト工業はいいな』といってもらえるような製品を、これからも送り出してきたいと考えています」
有限会社長沢ベルト工業
〒124-0006 東京都葛飾区堀切3-19-4
TEL : 03-3693-4944
URL : http://www.nagasawabelt-kougyo.jp/