細かな路地が入り組んだ下町・足立区関原。とある袋小路の先にあるがザオー工業の社屋だ。400坪もの広大な敷地に事務所やプレス工場、金型・資材置場といった複数の棟が建てられており、それぞれから響く作業音が独特のハーモニーを奏でていた。
案内してくれたのは、代表取締役の鈴木国博さん。ザオー工業の二代目だ。
「当社は父の鈴木省三が1968年に、当時は『協和製作所』として創業しました。印刷したものをプレス加工して抜くというネームプレート製作(銘板製作)が主な業務でした。しかし、1990年前後には需要が下降してきたことや得意先からの受注内容も変わり、次第に金属プレス部品の製造にシフトして金型製作も手掛けるようになりました。現在は金属プレス部品の製造として金型製作、プレス加工、シルク印刷及びネームプレート制作の3つを主な事業としています」
3つの事業のうち、半数近くの売上を誇るのが金属プレスだという。地デジチューナーで使われるアルミカバーやルーター筐体内のシャーシ、自動車の内部パーツ、遊技機のシャーシなどの部品を手掛けている。
「一般消費者も目にする外装部品を手掛けることも多く、そこを得意としています。なぜかといえば、お話したようにネームプレート製作で創業したという経緯があり、印刷の技術やノウハウをしっかり受け継いでいるからです」
プレスはプレス屋さん、型は型屋さん、印刷は印刷屋さんと分業しているのが業界の常識で、この3つを統合しているメーカーはかなり珍しいのだと鈴木社長は話してくれた。
「金属プレスと金型製造が一緒のメーカーはあるんですけど、印刷まで一緒というのはあまり聞いたことがありません。変な話、これらが一緒になったところでプレス加工と印刷の両方が必要な仕事は限定的で、シナジー効果はそんなにないんです。作業が効率化するわけではなく、プレス加工と印刷の両方が必要な仕事は限定的です。もし僕が今から同業種の会社を一から立ち上げるとしても、これらを一緒にやろうなんて絶対に思いませんよ。でも、当社は歴史的な背景から全部できてしまうので、現在も事業として継続させているんです」
ザオー工業がこれら3つの業務をトータルに扱っていることで、クライアントはひとつの発注先で希望するパーツを手にすることができる。
「管理面でのメリットも大きいでしょう。たとえば印刷面が剥離してしまうという問題が発生した場合、プレス屋さんと印刷屋さんのそれぞれに発注したものだと、どちらに非があるのか判断が難しい場合がよくあるんです。印刷屋さんは『ウチらは指定のインクを使って指示通りに作業したから、プレス屋の材料が悪かったんだ』といい、プレス屋さんも『ウチだって指示された通りの素材や油で適切に作っているよ』と言い張ったりしてね。その素材や仕上げに対してインクの食いつきをよくするにはどうすればよかったのか、材料や油、インクなどどの素材をどう変えればいいのか、素材変更によるコスト増はだれが負担するのか……そういった問題を追求して試行錯誤していかなくちゃいけないとき、分業体制だと管理に苦労してしまうんです。当社は一貫して製造しているからそのあたりの調整も柔軟にできますし、問題が発生しても責任の所在が明確ですから。そういったことでも、信頼をいただけているのだと考えています」
こうした強みを生かしてザオー工業は安定した企業経営を続けてきたが、製造コストの安い海外に発注するクライアントは増え、物価高や不景気もあって先行きはますます不透明に。ひとつの打開策として一般消費者向け製品の展開を模索し、本業で使用した廃材から生まれた「日本一めんどくさいブロック」の「ザオーブロック」を開発。パーツの組み立てはボルトとナットで接合しメタル素材のずっしりとした質感と、仕上げにアルマイト処理を施すことで鮮やかな色合いを表現しているのが特長で、2011年には「東京TASKものづくり大賞」の奨励賞を受賞した。
「奨励賞をいただいたことで自社製品としての展開を決断し、2020年から一般販売を開始しました。今では観覧車やクレーン車、バイク、プロペラ機、ヘリコプターなどのシリーズも広がっています。そのほかにも、デザイナーさんとコラボし、恐竜とカマキリやトンボの巨大なオブジェも作りました。初のBtoC商品ということで大変なこともたくさんありましたが、やればやるだけ反響をいただけるので張り合いがあります」そして2020年東京都中小企業振興公社のニューマーケット開拓支援事業に採択された。また奨励賞受賞から10年後ブラッシュアップしたものが、2021年「東京TASKものづくりアワード」で優秀賞を受賞した。
BtoCへの道を見出してからは未利用時に収納しやすく、お手入れにめんどうの無いシート状のシリコン製漏斗(じょうご)や、かわいらしいパンダの金属製ストラップなども開発。さらにはクラウドファンディングを活用してみたりと、新しい取り組みにも積極的だ。
東東京モノヅクリ商店街に参加したのは、この「ザオーブロック」の認知を拡大させるとともに、新しいモノヅクリに前向きな企業とつながることが目的だったと鈴木社長は打ち明ける。
「僕らと同じように、主事業の傍らでBtoC製品の展開を模索しているようなお仲間がいらっしゃるんじゃないかと思いまして。認知を広げる取り組みや想いを共有してみたかったんです。きっとそこから、新しいヒントも生まれるでしょうから」
現在、さまざまな関係者とコンタクトを重ねた末、「ザオーブロック」の新たなパッケージデザインを新調している。
今後もBtoB事業を核としながらも、BtoC事業が新たな柱になってくれることを期待している。
「まだまだ厳しいですけど、BtoBの3事業が苦しいときに少しでも穴埋めしてくれるような存在になってくれるとうれしいですね。景気の波に振り回されないような会社にしたい。不景気の無い会社にしたい。うちで働いてくれている社員も含めて、みなさんに余計な心配をさせたくないですから。まだ『事業』と呼べるほどの規模はないのですが、この『ザオーブロック』を少しずつ大きく成長させていきたいと思っています」