近年はオシャレなカフェも軒を連ねる清澄白河。東京都現代美術館の近くにあるのが、日親製菓本社だ。1階のガラス引き戸を開くと、5~6人の職人が作業に勤しむ菓子製造工房が目の前に広がり、砂糖やあんこの甘い香りも鼻孔をくすぐってくる。
「たいていは朝7時くらいから、繁忙期は6時くらいからここで作業しているんですよ」
出迎えてくれた現社長の妻である植竹さんと、娘で事務を担っているという佑衣さんがそう教えてくれた。
日親製菓の創業は1927年。当初は「雷おこし」のような干菓子の一種であるおこしを製造していたが、予想以上に負荷のかかる労力や製造機械の老朽化、社長の代替わりといった理由から、1961年よりソフト落雁製造へとシフト。翌年には発売したソフト落雁「あん家紋」が大ヒットを記録した。同製品は日親製菓が“ソフト落雁一筋”として専業化するのを大きく決定づけ、ロングセラーとして今日でも親しまれている。
落雁とは、お米や麦、豆などの穀類をすり潰した粉に水飴や砂糖を混ぜ、型に押し固めて乾燥させた干菓子だが、「もっと食べやすくて愛される落雁を作りたい」と願い、口溶けのいい柔らかさや中にあんこを入れるなど工夫を凝らした。
「その当時は落雁の中にあんこを入れるという発想はなかったと思うんです。餡を入れすぎれば飛び出してしまうし、せっかくの模様が黒くつぶれてしまう。型によっては押し固めたときにかかる圧力の具合で、意図しないところに餡が出てきてしまうこともあります。理想的な柔らかさを実現しつつ、落雁の中にあんこを入れるのには、かなり苦戦をしたと話を聞いています」
このほか、原材料の配合率や押し固めるときに掛ける圧力、乾燥の時間など、さまざまに配慮を凝らすことで独特のやわらかさを実現しているという。また、原材料に油脂を一切使用せず、原材料本来の自然の味と香りを大切にしている。
「あん家紋」をはじめとする量産品にはテフロン製の型を使用する一方、スポット商品や小ロット商品には職人が一つひとつくり抜いた昔ながらの木型と、使い分けているのも特徴だ。
現在は定番の「あん家紋」のほか、桜の花の形と桜パウダーの香りも楽しめる「あん桜」など、およそ10種類のソフト落雁を展開。現場で精力的に作業に励む会長を筆頭に、商品開発には積極的だ。
「この間は、きなことコーヒーをブレンドした新商品開発に挑戦しました。和物にコーヒーという組み合わせはかなり斬新だと思うのですが、ご好評をいただいています。こちらはあんこが入っておらず、一口サイズの個別包装にしているので、お茶請けとして気軽に食べられるのがうけているのかなと考えています」
日親製菓で取り扱っているソフト落雁を含め、和菓子の主な消費者は日頃からの愛好家と観光客だ。前者は地元のスーパー、後者は観光客向けの販売店や道の駅、寺社仏閣が主な販路になる。和菓子そのものの人気が衰えを見せているうえ、長引くコロナ禍によって観光客が激減したことで業界が受けたダメージは小さくない。
「コロナになって注文数が半減したなんてザラにありましたし、ここ2~3年は本当にキツかったですね。また、見た目よりも重労働な仕事ですので、跡継ぎが見つからずにたたんでしまうメーカーさんもいらっしゃって……都内で落雁を作っているメーカーは、もうほんの数件だけになってしまいました」
状況の変化を鑑み、日親製菓は日本最大級の食の展示会であるスーパーマーケット・トレードショーに出展して新たな販路を模索。新しいつながりを得て、OEM製造もはじめているという。
東東京モノヅクリ商店街への参加は、認知度を高めるのが主目的だ。
「当社の認知度もそうですが、ソフト落雁そのものの認知度も足りていません。まだ多くの人が、ソフトではない落雁に対する『硬い』『一口サイズではない』といったマイナスイメージを強く持っていると思います。私たちが提供しているソフト落雁はもっとやらかくて食べやしくて、おいしいのだと、多くの人に知ってもらいたいんです」
そのために、自社webサイトの構築やSNS対策を進めていきたい意向だ。また、より幅広いターゲット層に届けられるようパッケージデザインを見直したり、ゆくゆくはECサイトも展開していきたいという。
「トレードショーに出展した際も、多くの若い方から『はじめて食べたけど、やわらかくておいしかった』とおっしゃっていただけました。知らないだけで、うちのソフト落雁を好きになってくれる人はたくさんいるのだと確信しています」
日親製菓株式会社
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