晴海3丁目にある大きな商業施設・東京鰹節センター。ここでは東京鰹節類卸商業協同組合に加盟する89の鰹節問屋が一堂に会しており、中野もそのひとつだ。施設内は鰹節特有の濃厚な香りが充満し、不意に食欲をくすぐられる。
応対してくれたのは、代表取締役の中野陽平さん。2003年、24歳のときに父が経営していたこの会社に入り、現在は鰹節問屋の3代目として良質な鰹節商品の製造・販売に勤しんでいる。
「もともとは、私の祖父が江戸から続く鰹節卸商の大店の番頭をやっていたそうで、1974年に独立したのが創業の経緯です。以来50年近く、親子3代にわたって鰹節一筋でやってきました」
陽平さんが継がれるまで、カツオの本枯節をメイン商材として扱っていたという。一般市民に馴染み深いのは削った鰹節のパックだが、それには生の状態から1~2カ月をかけて燻製にした荒本節が使われている。一方の本枯節は、カビつけと天日干しという工程も加え約6カ月かけて発酵熟成させるもので、鰹節の最高級品に位置するものだ。料亭や蕎麦屋など、出汁が決め手となる飲食店に愛用されてきた。
「現在も本格的な本枯節を手掛けており、老舗の料亭さんなどたくさんの方からご贔屓をいただいています。2013年には『和食(日本人の伝統的な食文化)』がユネスコ無形文化遺産に登録されたこともあり、再評価の動きも感じています。ただ、それでも手間を掛けて鰹節を削るご家庭は減ってきていますし、昨今は業務用でも削りのパックを使うところが増えています。本枯節の需要は減少傾向にあり、私が継いでからは荒本節を使った加工製品も扱うようになりました」
当初は外注していたが、懇意の同業者から機械を譲り受けることができ、自ら加工を行うように。それによって製品開発のスピードも増した。
近年にヒットしたのが「かつお チップス『ぱりこ』」だ。これは薄めの厚削りにした後に乾燥工程を加え、鰹節をチップスのようにパリパリの状態にしたもの。塩も化学調味料も一切使用しておらず、お菓子感覚で鰹節そのままの味わいを楽しめる。
コーヒーを淹れるように抽出する仕組みがおもしろい「ドリップ式 飲むおだし『ほっとと』」は、鰹節の飲み物としての可能性を広げる商品。鰹節のほかに昆布や椎茸の粉末もブレンドすることで、イノシン酸、グルタミン酸、グアニル酸という3大うまみ成分を凝縮させた。
ほかにも鰹節をジャーキーにしたり複数の出汁パックを開発したりと、数多くの商品を展開している。
「すべての軸にあるのが、厳選された良質な鰹節を使っていることにあります。すべての商品が、素材の自然なうまみを感じられるようにしているんです」
陽平さんは中野に入社する前まで、スタートアップ企業で勤務していたという。起業意識の高い仲間に囲まれ、かつ小規模ゆえに幅広い領域をカバーしなくてはなかった環境に身をおいていた経験が、商品開発の力になっている。
少子高齢化や消費スタイルの変化により、鰹節の市場は徐々に減少傾向にあるという。そうした中で既存商品の価値を高めたり、また新たな価値を見出したりといった努力が不可欠だと陽平さんは考えている。
「当社の売上も以前は業務用が7、一般消費者が3という割合だったところ、いまは半々になりました。ECはAmazonと楽天で行っておりますが、業態に合わせてパッケージを見直すなどして、今後も販路を拡大したいと思っています」
東東京モノヅクリ商店街に参加したのは、中野の存在をよりいっそう広めたいためだ。
「SNSは手掛けているのですが、まだ当社にはしっかりとしたホームページがないんです。そのままだと、小売店で商品を担当するバイヤーさんがうちを見つけてくれませんから。当社の理念や特徴がきちんと伝わるホームページを構築し、そこを入り口にして今後の展開を図っていきたいと考えています」
鰹節が生み出すうまみは和食の基礎であり、ひいては日本文化を支える大事な食材でもある。そうした想いを胸に、中野は質のいい鰹節商品を世に送り出している。