東京・墨田区の一角にある、ZOOMの東京本社ビル。そこでは営業活動や経理などのバックオフィス業務が行われている。縫製工場のある秋田の様子は、パソコンのモニターから映し出されていた。
ZOOMの創業は1980年。フリーランスのデザイナーとして活動していた先代の加々村義廣氏が、デザイナーの感覚に寄り添える縫製工場の少なさを嘆き、「自身のプロダクトに対してより責任を持ちたい」と自ら縫製業務に携わり始めたのがきっかけだ。都内に工場を設けたが、規模拡大と人件費抑制を求め、1993年に秋田県の大館市にあった居抜きの工場を取得。カットソーから布帛まで幅広いアイテムの小ロット生産に対応し、パターン製作から生地や付属品の手配、裁断、縫製、仕上げ、納品まで一貫したサービス体制を整えている。小ロットの生産から数百枚の中ロットまでをカバーし、取り扱うジャンルも多彩だ。
先代が創業した「デザイナーの感覚に寄り添える縫製工場」であろうという想いは今も変わらず、それが強みだと加々村社長はいう。
「よく先代は『たった一枚のデザイン画からでも、ちゃんと形にできるようなセンスや能力を身につけてなければいけない』といっていました。その想いは、しかと受け継いでいます。それにアイテムの種類を絞らず、他社さんではありえないくらいの多品種を手がけさせてもらっているのも、ウチならではなのかなと思っています」
こうした強みを生み出せているのは、ひとえにポジティブで挑戦を恐れない社風にある。多品種を手掛けることは顧客満足度の向上や営業取引先の拡大、技術的なノウハウの蓄積といった利益をもたらす一方、非効率で作業負担の増大ももたらしかねない。しかしZOOMには、「モノをいちから作り出す喜び」を大切にしようというクリエイティブな企業文化が根付いている。
「とにかくクリエイティブな工場を目指すことがZOOMの存在価値であり、そこを貫いていきたいんです」
工場の勤務体制にも、ZOOMらしさを物語るポイントがある。
「20数名の規模だからできていることですけど、トップダウン型では技術力やノウハウを磨きにくいですし、本当にクリエイティブなアイテムは生み出されないと考えています」
それぞれ自主的な判断の下に能率的な業務を遂行していることだ。東京本社と秋田工場とは絶えずオンラインで繋がっており、いつでも手軽にコミュニケーションを図れる環境が築かれている。
元はまったく別の仕事に就いていたという加々村社長だが、父が築き上げてきた会社の行く末を案じ、入社を決意。安価な輸入品の増加や国内経済の悪化からアパレル業界の雲行きが怪しくなっていたことから、当初は先代に入社を拒否されたという。しかし熱意が認められ、2008年に入社。ZOOMにおけるモノヅクリをいちから学び、2020年に社長業を引き継いだ。
「それまでも十分苦境に立たされてきたのに、僕が社長を継いた年には世の中がコロナ禍にもなって大変でした。それでも、モノヅクリへのこだわりを一切妥協しないと決意しています。『これくらいでいいかな?』という考えが頭を過ぎって、迷ったら難しいほうを取る。そのこだわりは、絶対に続けていかなければなりません」
そうした不変の信条を胸に抱く一方、変化を追い求める要素もある。
「もっと皆で考え、行動していくような集団へと変えていきたいんです。そのため、パソコンを通じ、会社で抱えている業務を誰でも確認できるようにしました。『全員が経営者目線を持て』とはまではいいませんけども、ただ自分が携わる仕事だけでなく、より大きな目線で俯瞰することで自分や周りをマネジメントする意識が高まると考えています」
さらにもう一つ、加々村社長が求めた大きな変化がある。それは「工場のブランド化」だ。
先代の時代、ZOOMは経営の安定や認知向上を求めてオリジナルブランド「イッチョウウラ」を展開したことがあったが、数年で休止した。
「販売を専門にしている人たちがこれほど苦しんでいる最中、メーカーである僕たちがオリジナルブランドを売ろうというのは相当に難しいのが事実。それよりも自分たちの工場の存在そのものをブランド化し、中身や背景を知っていただく取り組みを進めたほうがいいのではと考えたのです。作り手の想いに寄り添い、小ロットでも妥協せずに生産する場所。可能な限りサステナブルや社会貢献にも配慮しており、お客様が喜ぶ価値を提供できる存在だと確信しています」
東東京モノヅクリ商店街では、そうした工場のブランド化への足がかりとなるオリジナルアイテムの開発やwebサイトなどのコンテンツ作りを進めている。
このほか、内職業務を増やして雇用を促進したり、問題になっている間伐材の利用を進めたりと、地元への貢献にも積極的だ。
「月並みですけど、会社は地域に愛されないといけません。僕が社長に就いたときに『SEW-ZOW』という言葉を掲げたのですが、『SEW(縫う)』ことは『想像』し『創造』することであり、そこには愛が不可欠です。愛があるからモノヅクリを徹底でき、モノを通じてそれがお客様に伝わるのだと信じています」