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伝統の「手釣り」でトレンドの革靴を提供していく|デコルテ

Update: 2021.01.18|CategoryTOPICS, よみもの

1983年より、革靴メーカーとして東京・浅草に根を下ろしたデコルテ。創業者で現在でも代表である田中正雄さんが創業を決意したのは、アパレルが望む革靴を自らの手で生み出したいという想いが極まったからだった。
「もともと革靴を輸入する商社に務めていたのですが、セレクトショップが誕生し始め、国内でデザインに優れた革靴を製造できないかという相談を受けるようになったそうなんです」と当時の状況を代弁してくれたのは、代表の娘であり同社取締役でもある佳李さんだ。
「多くの工場を回っても希望に適うところが見つからず、だったら自分でやれば早いんじゃないかと思い至ったそうです」
腕のいい職人を招き、デコルテを創業。懇意にしていたアパレルブランドやセレクトショップ、百貨店などからOEMの受注を受け、高品質なメイド・イン・ジャパンの靴を作り続けてきた。現在もユナイテッドアローズやバーニーズ ニューヨーク、三越伊勢丹、シンゾーン、ビギなど名だたるクライアントと仕事をしている。

社長自身、革靴を作る技術は持ち合わせていない。浅草には革靴職人の2代目、3代目が代表を継いだ工房も多いことを考えると、やや特異な存在かもしれない。
「そこがうちの特徴といえるかもしれません。自らが職人の領域に足をつってこんでいない分、しっかりと職人をリスペクトした上で創造的な仕事に取り組めているからです」
また作る技術はない変わり、正雄代表には商社時代から培ってきたトレンド勘や卓越したセンス、ファッションに対する生来の執着心があった。2階のアトリエに積まれた世界各国のファッション誌や変わった革靴のコレクションからも、正雄代表の人となりを伺いしれるようだ。

多くの業界関係者から厚い信任を獲得しているのには、いくつかの理由がある。
ひとつは、多種多様なデザインに対応していること。メンズかレディース、どちらかを専業にしているシューメーカーも少なくないが、デコルテはどちらの製造も受け付けている。またレディースでも、カジュアルなシューズを手掛けているところは意外と少ないという。
「ピンヒールやパンプスのようなエレガンス系のメーカーが多い中、うちは奇抜というか、特徴的な靴を作ることが多いんです。同業界隈からは、『変な靴を作ってるところ』と呼ばれたりするんですよ(笑)」
流行り物に対応しつつも、伝統的な「手釣り」を駆使する姿勢も評価されている。足の形に馴染むよう、甲革を木型に合わせる際に機械ではなく手で吊り込んでいく技術のことで、それによって履き心地が大きく向上するという。
「効率はよくないが、全部手作業でやったほうがふんわり仕上がるし、全体の表情もよくなるんですよね。そうした作業ができる職人さんは少なくなっていますけど、後世に大切に残していきたい技術だと考えています」

多くの有名クライアントを抱えていることから、流行に対する知見を蓄積していることも支持されているポイントだ。デザインからすべてを持ち込まれてのOEMも多いが、デコルテ側からデザインを提案していくODMの案件も増えているという。
「モノが売れない時代となり、クライアント側でも何を作っていいかわからなくなるときがあるようです。当社では流行のカラーやシェイプといった情報が必然的に蓄積されているので、そうした情報を駆使してクライアントが望まれる製品を提供できるようにしています」
比較的若手の社員が多いことも、トレンド事情と緊密な関係を保てている要因だ。

 

信頼の技術力とデザイン知識。さらにそこに、優れた品質とコストバランスを加えることで、“デコルテらしさ”は完成する。
「たとえば、中には納品分の一部だけを抜き取り検品するメーカーもありますが、うちは必ず全量検品を実施し、異物が混入していないか、キズがないか、細かくチェックしています。また、すごく高額な製品を作っても商売になりませんから、コストバランスについては特に気にしています」
良好な信頼関係を維持すること。それはデコルテが創業以来大切にしている事柄だという。

コロナ禍で展示会が中止となり、営業にも行けずに困惑していた最中、東東京モノヅクリ商店街への参加を決意した。何か行動に移さなければならないという飢餓感が背景にあった。
「コロナによって足止めされた中、改めて会社のことを振り返るきっかけになりました。東東京モノヅクリ商店街では、これまでなかった会社案内のパンフレットを製作したいと考えています。これまではありがたいことに人づてにお仕事をいただけており、新規営業を掛けたことはなかったのですが、この状況下で受注数は減少傾向にあり、新しいチャンスを掴むきっかけとしてパンフレットというツールが必要になると考えたからです。うまく当社のイメージを伝えられて、新しいお客さんができたらいいなと思っています」

最盛期には400社ほどが加盟していたいという浅草の製靴組合は、2020年には100社を切った。コロナ禍を受け、さらなる減少も懸念されている。海外から安価な製品が流入する動きや、人々の財布の紐が固くなる状況はいっそう強まるばかりで、見通しは明るくはない。

佳李さんは「ふるいに掛けられているような状況で、今が踏ん張りどき」だと感じている。
「浅草はシューメーカーが集う土地ですが、『タオルといえば今治』というほどの知名度がないのも事実。私どものように、職人が一足一足丁寧に作っているメイド・イン・ジャパンの革靴が浅草にあるんだということをもっと知っていただけたらいいなと感じています」

INFORMATION

有限会社デコルテ

〒111-0032 東京都台東区浅草5-67-8
03-3871-0189

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