足立区東保木間の住宅街の中にあるワタトー本店。
のれんをくぐると、店内に漂う大豆由来のほのかな甘さが鼻孔をくすぐってくる。多くのお客さんのお目当ては、五家宝だ。
「大正10年、日本橋で豆菓子屋として創業してすぐに熊谷の菓子職人から五家宝づくりを教わったそうで、それから今に至るまで作り続けているんです」と話すのは、四代目で現代表取締役の渡辺将結さんだ。
五家宝とは、きな粉と水飴、もち米からなる埼玉・熊谷の銘菓のこと。ワタトーは、この五家宝をはじめとするきな粉菓子の専門店だ。
小売店の奥に工場が併設され、そこでワタトーが取り扱っているきな粉菓子の多くを製造している。
「五家宝を取り扱っているメーカーは全国で数十社しかありませんし、さらにきな粉専門メーカーは十社もないでしょう。きな粉に精通しているのが、うちの強みです」
たとえば、売上の半分以上を占めている「きなこひねり」にも、長年培った技術が活かされている。きな粉を練った生地の中央にあんこやチョコレート等を挟んだ菓子で、食感のいい柔らかさを残しながら型くずれしないよう整形するには、原材料の配合や加工方法の工夫が欠かせない。この「きなこひねり」は、ワタトーでしか実現できないオリジナルだと自負する。
また、主原料であるきなこの品質の良さも強みのひとつだ。
「隣りに親戚が経営するきな粉製造メーカーがあり、要望に応じて高品質なきな粉をすぐに手に入れることができるんです」
製粉所の多くは、きな粉のほか麦茶やいりぬかなどさまざま製品を取り扱っている。しかしワタトーの仕入先は、きな粉専門。きな粉製造で理想的な煎り方を熟知しており、他メーカー製のきな粉とは旨味やコクがまったく違うという。
将結さんの経歴もユニークだ。28歳で会社を継ぐ前は、男性向けエステティシャンや美容品のディーラーをやっていたという。
「当時は僕が継ぐと考えていなかったもので。祖父が脳梗塞で倒れたことをきっかけに入社しました。子供の頃から親しんでいたこのお店や工房を、なくしたくないという気持ちが心の奥底にあったんです」
若年層がターゲットだった前職の経験は、ワタトーでの新製品開発や事業改革を推進する原動力になった。
きな粉そのものの効能にも今一度注目。良質な食物繊維やプロテインが入った健康食材であることを強調したパッケージデザインを作成し、女性客の多い高級スーパーなどに売り込んだ。
浅草など外国人客が訪れる観光地でも、日本のローカルフードとして一定の人気があることを受け、ムスリムでも安心して口にできることの証であるハラール認証を取得。インドネシアやマレーシアなど、イスラム圏からやってきた観光客でも気軽に買いやすくすることで、売上が急増した。
「ただいいものを作れば売れる時代ではなくなりました。アイデアを出し、どうやってお客さんに届けるのか、真剣に取り組んでいく必要があります」
特に注力しているのが、新たに企画した「きなこスイーツファクトリー」ブランドだ。きな粉をベースにチョコやアーモンドなど新しい食材を取り入れたり、一口サイズに包装して食べやすくしたりと、伝統の菓子作りとは一線を画している。
「僕らの住む足立区は人口が多く、働くお母さんもたくさんいらっしゃいます。そんな方々が笑顔じゃないと家庭にも笑顔が生まれてこないと思って、お母様方が手軽に味わえるお菓子を作りたかったんです」
新ブランドのために生産ラインも増設。東東京モノヅクリ商店会でも、この「きなこスイーツファクトリー」内での新商品開発を目指している。
「伝統的な和菓子の認知は下がり続けています。しかし、きな粉を使った新商品が受けいられれば、同じ生地を使っている五家宝の認知も広がってくると考えています」
今後については、10年を目処に売上を3~4倍に高め、工場の一部を改装し、製造機器も拡充していきたいと話す。
「きな粉はまだまだ大きな可能性を秘めた食材です。いつかは『きな粉』の言葉を世界の共通言語のようにしていきたいですね。ウチでもいくつかのヒット作を出し、その名を広める助けになれたらと思います」