昭和7年創業、墨田区で三代に渡り革製品を製造している牧上商会。
代表取締役 牧上喜之さんにお話を伺った。
「革は比較的小さな産業で、産地といえば東京の東の方と関西の姫路くらいしかもう残っていないんですよ。もともと浅草の方が地場産業として靴を作っている商店が多く、その近隣ということでこの辺りは革問屋が多いんです。羊の革やヤギの革だったりね。
私の祖父も羊の革問屋でした。日本には羊やヤギは基本的にいないでしょ? だから、海外からなめされた状態で入ってきたものを、これは靴用、これは衣料用とわけて染まった状態で売っているんです。今は染まった革で仕入れて製品にしています」
おじいさまの代から続いているということは、昔からこの仕事に興味があったんですか?
「いや、全然。(笑)最初は全然継ぐ気なんてなくて、普通に就職したんですよ。継ぐきっかけになったことといえば、単純にサラリーマンに向いていないなと感じたんです。若造なのに会社の上司に堂々と意見したり…今思うとなんてやつだ!と思いますが(笑)」
仕事をひとりですべて受け持つことは、とても大変ではないですか?
「どの仕事もそうだと思うけれど、先が読めないところは大変です。『果たして今年はちゃんと注文がくるのだろうか?』と心配になることもありますよ。でも、朝6時には出社して、誰に気を遣うわけでもなく黙々と自分のペースで仕事ができることが、性に合ってるんだなと思いますね。一カ所にじっと座って仕事をするということに向いていないんです。
仕事全体を通して言うと、大変という感情もあまりなくて。来る日も来る日も同じ製品を作っているわけではないので、日々めまぐるしく状況が変わっていく。そういうところも好きです。毎回色々な新しい課題にぶつかり、その都度解決作業をしていく。移り変わる中で仕事をしていきたいと思います。容量オーバーにならないよう、新しい情報をどんどん取りいれて、古いものは出していかないと」
2012年に墨田モダンも受賞された「典型スタジャン」について教えてください。大人の男性に向けて手作業で制作されているそうですが、とても美しいフォルムですね。
典型スタジャン【完全受注制】
制作過程をHPでも見ることが出来ます!
©牧上商会
「墨田区役所の方からやってみない?とご提案いただいたことがきっかけです。大人の男性に着てもらうことをコンセプトに、制作しています。
スタジャンといっても革の部分は一部だから、OEMの仕事では受けないんですけど、スタジアムジャンパーは普遍的なものですし、単価もそんなに高くならないだろうと。あと、自分で着てみたいというのもあったんだろうな。直接消費者さんに販売しているから、この値段でできているんです。実際にやってみるとオリジナルブランドを作るよりも、OEMに徹している方が向いているなと思ったので、商売というよりやっていることに意味があるプロジェクトなのだと感じています。
あまり大々的に宣伝していないんですけれど、どこからか見つけてくださるみたいで、先日も40代半ばほどの男性から連絡をいただいて注文を受けました。東京出張のついでに取りに来たいとおっしゃったので、ここまできていただきました。
単純だけど、長年モノヅクリをしていてお客様が喜んでくれたときは、嬉しいですね。あれがよかった、あれはよくなかったと感情に浸る暇もなく、フルスピードで走っている中で、やっぱりモノをつくるということが好きみたいです。ワークライフバランスはめちゃめちゃですが(笑)たくさんの人と話して改善して、モノを作っていくことが好きなんです」
3代に渡って続いているモノヅクリですが、これからもずっとモノヅクリ道を突き進んでいかれるのでしょうか?
「現在、自社の縫製工場は、一番上が40代の方で、あとは20、30代の職人が中心です。昨年まで長年勤めていただいていた80歳近いベテラン女性たちが教え、育ててくれました。私自身今は50代だから、あと20年はやれるかなと思っていますが、私が辞めても技術が残ればいいと思っています。技術を残し、モノを残していきたいですね」
牧上商会
東京都墨田区石原3-2-10
千倉工場
千葉県南房総市千倉町北朝夷66